寒い日は、お客さんの足が遠い。開店して4時間余り、時間だけが過ぎていた。眠気に誘われそうになった時、外に置いたワゴン車の100円本に客がついた。目が覚めた。土入口を開け声をかける。
「寒いですから中も見て行ってください」
うんうんとうなずきながら老紳士は店に入ってくれた。
「吉川英治の本ありますか」尋ねられた。
「たくさんありますよ」
うれしくなってかなり古い、初版本の新平家物語までご案内した。
「いやいや、それを全部こなせるかどうか…」そんなやり取りをしていると学生らしい女の子が入ってきた。客が客を呼ぶ。誰か店にいると気軽に入りやすくなるものである。
「吉川英治の本にはところどころに韻を踏んで俳句が入っているということに気がついたんだよ。この齢になってね。感心したね。だからじっくり読んでみようと思ったんだ。でも24巻もあっては手に負えない。終わりまで行きつくかどうか…。また来ます。来させてください。ここはお茶も飲めるようだし、ゆっくりできそうだ。時間を取ってまたきます」
吉川英治ではなく、薄い文庫本3冊をお買い上げになった。
「お嬢さん、学生さん。若い人は何を読むのかな」
関心あり気に顔をのぞき込むようにして本を探している彼女に語りかけた。
「まだ何を読んだらいいのかわからなくて…」
「私は90になるもんだからあまり長いものは読めなくなってしまってのお。今頃になって、吉川英治をもう一度読み直してみようと思っているんだよ。それじゃ、また来ます」
帰られた後に、私たちは顔を見合わせて感嘆の声を上げた。
明日は、みみ読の日。林芙美子作「風琴と魚の町」の朗読を聴く日です。3時半~4時
参加費500円(1ドリンク+お菓子付き)20席立ち席ご免
朗読が始まったら4時半まで入室お断りします。
0 件のコメント:
コメントを投稿