2017年5月2日火曜日

ほんの紹介


 今日紹介するのは「地名」の話である。ずうっと、昔、先祖たちが名づけた土地の名前である。
 平成の大合併と称して、町村合併がされ、受け継がれてきた町名が失われていった。『日本の地名』で谷川健一は、弥生以降の地名がその意味とともに失われつつあるとしている。記紀神話に登場する各地の地名を読み解き、弥生以降の人々が私たちに伝えようとした事柄を丁寧に解いて見せる。
 地名は、漢字や万葉仮名で書かれたものばかりではない。漢字で表せないのか、当て字さえできないのか、カタカナ地名やひらがな地名も多くある。漢字以前の伝承地名であろう。地域に伝承された地名情報は、重要な先祖からのメッセージであると、かねてより注目してきた。それがたとえ文書にされていなくともそれこそが大切な言い伝えなのである。
 楠原祐介は『この地名が危ない』の中で、ずばり「災害地名学」を提唱されている。大昔の人々からのメッセージを積極的にうけ止めようとする姿勢で書かれたこの書は面白いだけでなく、意義深い。
 『葦』を「あし」とも「よし」とも呼ぶように、地名もすでに、713年「好字をつけよ」とする詔によって書き変えられられているものもある。ここで古代からの知恵は寸断されたことになる。それでもなお、カタカナ、ひらがな表記によって残ったものもある。地域の口伝から類推できるところもある。谷川氏や、楠原氏のような研究者も存在する。 
 かくして、キラキラネームにも似た地名に置き換えられ、忘れ去られようとしている今、地名に託されたメッセージがほんのわずかな人々の緻密で地道な努力によって、読み解かれ受け継がれようとしている。古本屋は消えゆくこれらの人たちの努力を応援したい。どちらも岩波新書である。

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